蜃気楼

 

 

「空気が冷たくて澄んでいて、気持ちいい。」

 若島津は大きく深呼吸した。長い間せまい車の中で縮めていた長い手足を思い切り伸ばしてやる。

「綺麗なところだな。」

 白い雪、藍色の海、白い山、そして水色の空。

 あれ?白い山?

「なあなあ。なんで海の向こうに山が見えるわけ?!」

 もしかしてあれが蜃気楼?と、若島津は日向の袖をひっぱりながら感嘆の声をあげている。

 滅多に見せない少々幼げなしぐさに思わず小さく笑ってしまった。

「残念だけど、あれは蜃気楼じゃなくて、本物の山なんだ。この時期、富山は天気がいい日は多くないから、立山連峰が端から端まで綺麗に見えるなんて滅多にないらしいぞ。

富山湾はこんなU字のようになってるから、」

と言って、地面に「U」の文字を大きく書き出す。

「このUの端から海越しに向こうのUの端っこの山が見えるってわけ。」

「へえ、おまえって意外と物知りじゃん。・・・でもさ、富山ってよく蜃気楼がみえるんだろ?1度でいいから本物の蜃気楼見てみたいよなあ。」

「俺にしてみたら、素直なお前のほうが蜃気楼みたいで怖いけど。今にも消えちまいそうで。」

「何?素直な俺は嫌い?」

 海越しの白い山を見つめたままで、白い息を吐きながら呟くように聞いてくる。

「そうだな。ワガママでナマイキなのがお前らしくて好きだけど、素直なお前は俺の前でしか見れないからな。」

 静かに振り向き、まっすぐに日向をみつめるその瞳は自信にあふれていた。

「もっと好きに決まってんだろ?ばかやろ。」

軽くパンチをすると、そう言うと思った、と笑いながら受け止める。

 

「で、今日はここで泊まるんだけど。」

 日向の声に誘われて振り向くと、そこには大きな看板が1つ。

「『めいわそうにようこそ』?」

 驚いたように看板を読んでいる若島津に満足した日向は自慢気に言葉を続けた。

「こないだ受けた雑誌の取材でそこの記者さんに『いい宿がある』って、教えてもらったんだ。なにしろ名前が『めいわ荘』だろ?これはお前と行くしかねえな、と思ってさ。」

 漢字で書くと『女岩荘』なんだけどさ。

 

 

よろしかったら、是非、富山に遊びにいらしてください。

ゆのまゆは今年のお正月に家族7人+親戚4人でお泊りしてきました。

お魚がおいしくていい民宿でしたよ。

以上、お国自慢小説でした。